
文法学習は短文暗唱=瞬間英作文トレーニングのバリエーション
私は、英文法の学習を、英語を使いこなすための「運用文法」の習得として位置付けています。そこで、自分のメソッドの中では、文法の学習を短文暗唱=瞬間英作文トレーニングの中に組み込んでいます。教材としては、解説が割と詳しいいわゆる「参考書型問題集を使用します。」これを短文暗唱のトレーニングの経過につれ、3ステージに分けて使うのです。
1.中学英語レベルの文型が身についた後、高校入試用文法問題集
2.中学以降のレベルの文型・構文の学習と並行して大学受験用文法問題集
3.必要に応じて、TOEIC,TOEFL用文法問題集
文法の学習を大部な文法書で行うのは非効率的です。文法書にはありとあらゆる知識が網羅されていますから、あくまで参考書として使用するのがいいと思います。また、文法の問題集を使うと、短文暗唱=瞬間英作文とは異なる角度から英語を使う上での重要点に焦点を当てることができます。
短文暗唱=瞬間英作文は、文の瞬間的な立ち上げ能力を最大の目的とするので、同じ文型を連続して暗唱します。そこで、機械的な流れが生じ易くこまかな点が意識の網を通り過ぎてしまうことがままあります。例えば、must
とhave toとを別々に連続的に練習していると、次のような問題をぱっと出されると戸惑うこともあります。
問題.日本語の意味に合うように( )内の正しい語句を選びなさい。
彼女は部屋を掃除する必要はありません。
She (must not,
doesn't have to) clean the room.
文法問題集を使うことによりこうした点にしっかりと意識のスポットライトを当てることができるのです。ステージごとにもう少し説明してみましょう。

第1ステージ=高校入試問題集
短文暗唱=瞬間英作文、音読パッケージなどで中学英語の文型がほぼ身についた段階でこのレベルの英語の仕上げとして用いるのがいいでしょう。こまかな点など落としていたポイントが拾い上げられ、意外な発見をするでしょう。
私は中学時代、音読パッケージの原型のような学習をしていてかなりいい基礎力がつきつつありましたが、中学3年の時、文法問題集を有効に使う機会に恵まれました。当時、妹が、近所に住む元中学の英語教師の女性に英語を習っていたのですが、母親に「受験だし、おまえも行けば?」と勧められ通い始めたのです。
週一回の授業は、中学全体をカバーする、しかし、薄めの文法問題集を淡々と解いていくというものでした。ただ、決して答えを出すだけでなく、穴埋め問題も、書き換え問題も、すべてセンテンス全体をしっかりと音読する形の授業でした。単調といえば単調なスタイルで、一緒に通い始めた友人はほどなくやめてしまいました。しかし、なにか感ずるものがあった私は、ひとりになっても授業を受け続けました。まあ、先生が美人ということもありましたが。
2ヶ月も通った頃から、私は自分の英語に起こりつつある変化に気づきました。雑然としていた知識に一本軸のようなものが入った感覚です。それまで、勘でこなしていたものもこれはこういうんだ、という確信がもてるようになったのです。実力試験などでも、そこそこわかっているのに取りこぼしが多い弱点がなくなり、英語では常にほぼ満点が取れるようになっていました。しかし、そんなテストの点が上がったなどというつまらないことより、「俺は英語の基本がわかってきたぞ。」という実感が得られたことが最大の収穫でした。このときの学習法が、私のメソッドにおける、文法問題集の使い方のモデルになっています。

第2ステージ=大学受験用文法問題集
高校、大学受験レベルの文法はかなり高度になり、かなり英語力のある人(TOEIC700代後半から800台)でも、穴や空白部分がある場合が多いものです。ある項目を薄めの文法参考書でざっと見ておくなどして、その項目について、参考書型問題集でまとめていき、最後に全体をサイクル法で完成させるのが一般的な方法です。また、よほどマニアックに文法を勉強するのでなければ、このステージで2冊ないしは3冊程度の問題集をあげてしまえば、文法のまとまった学習は終了です。本当にこのステージの学習が完成すれば、次の第3ステージは必要がないくらいです。つまり、高校入試用問題集一冊、大学入試用問題集2冊、合わせて3冊で一生英語を使っていくために十分な文法力がついてしまうということです。
私がこのレベルの文法を学んだのは高校3年の12月からです。私は、高校時代一切学科的勉強というものをしていませんでした。ほとんどやらないということではなくて、文字通りゼロでした。教科書はすべて学校に起きっ放しにしていました。私が通った高校は神奈川の学力的にはどうということもない県立高校でした。いわゆる主要5科目はそこそこできた私は、入試テストの総合点は上位でした。一年の一学期に受けた実力テストでは、中学時代の余力で、特に得意の英語や国語は、学年でトップクラスだった記憶があります。しかし、そういった学習態度のため成績はたちまち下落し、卒業時には400数十人中、ビリから数人目という体たらくでした。ただ、本人は、「俺より下の奴って誰なんだ?」と言う風に悪びれる様子もありません。ただ、自己弁護をさせていただくと、無気力な少年だったわけではありません。好きなことを楽しく、懸命にやっていたのです。私が高校時代にやったことは、本を読むこと、詩を書くこと、そして部活動の柔道の3つでした。そしてそれだけで私は手一杯でした。
高3の12月に勉強を始めたものの、甘えた話ですが、現役で合格する気持は無く、はなから一浪する計画だったのです。高校の勉強は全くしていなかった私ですが、英語に関しては中学英語、つまり英語の基本が身についているという自負を持っていました。その基礎力を下支えにして、大学受験レベルの英語も数ヶ月でマスターできる胸算用でした。そんな、甘い話はないだろうと考える人が多いでしょう。中学英語程度の下地で、高校時代に3年もブランクがあって、そんな短期間に大学受験レベルの英語が身につくはずがない、と思うのも無理はありません。結論から、言いましょう。申し訳ありませんが、本当に数ヶ月で大学受験レベルの英語力はクリアしていました。高3の11月頃に受けた大手予備校の模擬試験で、英語の偏差値は40台後半でしたが、翌年の夏明けの同じ予備校の模擬試験では70台の半ばになっていました。自慢話めきますが、私が言いたいのは、中学英語さえ本当に身についていれば英語力は短期間にいくらでも伸びるということです。
この時期に私が学習したのは、英文法と英文解釈=精読です。英文法の学習に使用したのは、灘高校の先生が著した参考書型問題集。それをあげてから、旺文社の「英文法標準問題精講」(原仙作著)。この2冊だけです。この2冊を、次の「文法問題集の使い方の実際」で紹介する方法で完成させたのです。それだけで十分でした。また、私が集中的に文法を(精読もそうなのですが)、学習したのは大学受験期が最初で最後で、その後まとまった形で文法の学習をしたことはありません。そして生来飽きやすく持続性の無い性格のため、受験勉強を真面目にやっていたのは、浪人の夏まででした。その後はまた本を読み出したり、ボクシングやキックボクシングの観戦にうつつをぬかすようになったからです。つまり、私が受験英語をつめて学習していたのはせいぜい7、8ヶ月で、文法に絞れば半年足らずです。その短期間内に必要十分な英文法を身につけたということになります。これは、特殊な例ではなく、さまざまな英語習得本で酷似した体験を聞きます。実際のところ、文法・構文は英語の学習の中でももっとも早く仕上がってしまうもので、中学英語程度の基礎がマスターできていれば、一生英語を使っていくのに必要な英文法の基本は、一年前後で身につけられるはずです。

第3ステージ=TOEIC,TOEFL用文法問題集
TOEIC、TOEFLの文法問題は大学受験レベルの文法を終えただけでは太刀打ちできないと訴える人が多いものです。確かに、TOEIC、TOEFLの問題は、これは仮定法の問題だな、これは分詞構文だなとわかるようには鍵となる文法項目が歴然とは示されていません。一つの設問文の中に、三人称3単現のSのようなごく基本的事項から、仮定法過去完了のような難解とされるものまでが、何気なく結合されて使われています。
しかし、実際には大学受験レベルの文法が本当に身に付いていれば、特にこれらのテスト用の文法問題集を解く必要はありません。TOEIC、TOEFLの文法問題を苦手にする人がよく訴える症状は、「どの文も正しく見え、どこに間違えがあるのかわからないし、時間内では問題が解けない」というものです。私はこの「解けない」という表現に違和感を覚えます。文法の問題は数学の問題や、パズルではありません。文法問題は「解く」のではなく「反応」すべきものなのです。
例えば、日本語で、「その庭へたくさん花が咲いています。」というセンテンスを読んだり、聞いたりすれば、即座に違和感を覚え、「その庭には」を間違えたのだなと反応することができるでしょう。英文法を適切な方法で身につければ、英語においても同様な反応をすることができるようになります。問題は、受験英語では出題の仕方、悠長な解答時間のために「解く」方式の学習でもなんとかなってしまうことです。本当の文法力をつける人は実はこの時点で「反応」する能力をつけてしまっています。しかし、問題の簡単さゆえに、受験レベルでは、差が目につきにくいということが、非現実的な文法学習法を見過ごしてしまう一因だと思います。
大学受験レベルまでで、反応できる文法力を身につけ損ね、また、いまさら大学受験用の問題集に戻るのはいやだという人は、中学英語は身についているという条件で、どうぞTOEICやTOEFL用の文法問題集を使ってください。ただ、次項「文法問題集の使い方の実際」で紹介する方法を採用してください。
私は大学受験を終えて6、7年後、TOEFLを受験する前に、TOEFL用問題集を購入してみました。TOEFLの文法問題は実戦的で、大学受験レベルの文法力では太刀打ちできないという風評を聞いていたからです。ところが、実際に問題に当たってみると、どうということはありませんでした。これなら特別勉強する必要も無いなと、その問題集をやるのはやめてしまいました。本番のテストでも上出来でした。もっとも私はマニアックに文法(まあ、なんでもそうなのですが)をやるタイプではないので、微細な文法は知りません。’97年にTOEICを受験した際にも985点で、満点は取り損ねたのですが、文法問題を1問か2問落としたのだと思います。しかし、文法をやり直そうという気にはなりませんでした。また、自分の教室の授業で使おうと、旺文社の「精選英文法・語法問題演習(シリウス)」を買い、まず自分で解いてみた際も、全部で1,000題くらいのうち30問ほど間違えました。たいしたことないでしょう?それでも、英語を使う上で文法力の不足は特に感じないし、TOEICでも満点近くが出るものなのです。まあ、気楽に構えて下さい。