各種ある英語テストの中で、英語力を測る精度と使い勝手の良さで、私はTOEICをお薦めします。それは、次のような理由からです。

TOEICは、非常に合理的に作られたテストで実に正確に学習者の英語のレベルを判定してくれます。「TOEICなんぞで英語力がわかるか」と異論を唱える向きもありますが、一定のレベルまでの英語力を測るための物差しとしては最も信頼に足り、利用しやすいテストだと思います。TOEIC懐疑論者がよく言うのが、「ファックスメッセージや広告文のような皮相で簡単な英語ばかりで、骨格のしっかりした、品格ある英語が学べないではないか」といった類のことです。これは、視点がずれています。TOEICは学習の対象や目的ではなく、物差しに過ぎないのですから。私自身、TOEICの問題内容そのものが、「学習者がすべからくモデルとするべき珠玉の英語を集めたもので、鑑賞、研究に値し、教材として活用するもの」などとは考えていません。
実際私は、TOEIC,TOEFLをはじめとして、英語テストのための特別の勉強をしたことは一度も無いし、生徒を指導する上でもそういうことはしません。受験が近づいたら、チューンナップのために自宅で模擬試験を一回くらいやることを勧めるだけです。物差しに作品的高級さを求める人はいないでしょう。寸法さえきちんと測れればいいのですから。
しかし、物差しとしては、TOEICはかなり信頼に足るものです。まず、一定の教育を受けたネイティブ・スピーカーが受けると必ず900台半ば以降の高得点がでます。大学受験の問題などにはネイティブ・スピーカーが首をひねるものが散見されます。これは、日本で発達した受験英語があまりに高踏的で、教養劣るネイティブ・スピーカーには手に終えないいほどの高みに達したということではないでしょう。本来の生きた英語を離れ、いびつな定向進化を遂げてしまったのか、単に出題者がヘボなだけです。TOEICは大量の、易しい英語を迅速に処理するという問題形式ですから、確かにレベルの高い英語を求める人には物足りないでしょうが、英語の使用能力を測るには有効な形式だと思います。
また、TOEICは対策がほとんど効かず、英語力が変らない限り、ほぼ同程度のスコアしかでません。私のもとに相談に来る人たちの中にも、さまざまなTOEIC対策本や、専門校の「TOEICスコアップ短期コース」のようなものを試した人がかなりいますが、ほとんど効果はないようです。効果があるのはTOEICの試験形式や問題に対する基本的な対処法を初めて知る初期の間だけで、その後は英語力を底上げしない限りスコアはピタリと止まってしまいます。こうした冷厳さが、翻って尺度としての信頼性になるのだと思います。
もう一つは、TOEICを作成しているETSが、統計・数学的技術を駆使して、どの回を受験しても、スコアに不公平がないように配慮していることです。この点、日本国内の代表的英語テストの英検では、年々試験形式・難度が変り、例えば、同じ一級合格者でも、英検誕生期と現在では合格に求められるレベルがまったく異なっています。それなのに、英検一級ということでは、同じ資格で、しかも、一回受かってしまえば、その後英語力が落ちたとしても英検一級合格の資格は一生有効です。実用的英語力の尺度が欲しい実業界などが、その役目を一元的にTOEICに担わせつつある趨勢もある程度理解できます。
このような理由から、当サイトでは、英語のレベルを表すためにTOEIC何点レベルという表現を頻用します。これは、単にものごとを客観化・明確化するためで、TOEICを目的化・神格化するつもりは毛頭ありません。英語力を上級やら中級やらと表現するよりはるかにあてになるからに過ぎません。気温を表すのに、「暑い、寒い」という主観に頼るより、「摂氏〜度」と言ったほうが正確であるのと同じことです。
英語の達人を自称するTOEIC懐疑論者の中に、色々理由をつけてTOEICを受験することを避ける方々がいます。これは理解し難い姿勢です。TOEIC批判をするのなら実際に受験して高得点をあげてから、「このテストはたいしたこと無いよ」と、のたまえばいいのです。TOEICはその性質上、テストに対する好悪に関わらず、高い英語力を持つ人が受ければ必ず900点台半ば以上の高得点が出るようにできています。ところが、英語マスターを自称しながら、浮気の最中に奥さんと出会うのを恐れるごとく、TOEIC受験を忌避しまくる手合いがいます。
英語を学習する人で指導者を選ぶことに迷っている人は、指導者候補にTOEICのスコアを尋ねるか、未受験の場合は受験を要求することをお薦めします。一回2時間程度しかかからないテストですし、年に7〜8回も実施しているのですから、多忙すぎて受験が叶わないという言い訳は通用しません。本当の達人なら、なんの準備もせずに、鼻毛を抜きながらポンと最低950点以上のスコアを出すはずです。その上で、「こういうところに英語学習の最終目的地点があるのではないよ。」とでもいうはずです。それを避けるようなら、その人の英語力は眉唾ものだということです。
何年か前、NHKラジオの「やさしいビジネス英語」の元講師杉田敏氏が、番組テキストの中で自らのTOEIC受験を語り、淡々と、ケアレスミスで満点を後一歩のところで取り損ねたことを語られていました。NHK講師という地位を考えれば、こうしたテストを受けるリスクは相当なものだと思いますが、本当の達人というものは、物事に対して潔く、恬淡としているものです。自らを神格化・神秘化することに汲々としている似非達人とは違うなと、氏に対する尊敬を新たにしたものです。ちなみに、杉田氏もTOEICは非常によくできたテストだと評しておられました。

TOEICは、英語力を5点刻みのスコアで表しますが、おかげで自分のその時点での英語力が非常に把握しやすくなります。多くの英語検定は合否を出す形式なので、英語力のこまかな判定が困難です。また、スコア算出という形式ゆえに、繊細な性格の学習者も合否式テストで不合格になった場合の「サクラチル」的挫折感を味合わなくてもすみます。
TOEICのこの形式は、ETSが作成する兄貴格のTOEFLも同様です。しかし、TOEFLは、北米など英語圏において、大学の学部・大学院で勉強できるか否かを判定する目的で作られたため、主に比較的高い英語力を持つ層を受験者として想定しています。そのため、TOEFLのスコアが正確なのは主に500点以上の範囲で、400点台以下のスコアは有為なものではないということです。TOEFL500点はTOEICで600点くらいにあたり、一般的日本人の場合、英語力が最も高まる大学受験期でさえ、大多数はこのレベルには達しません。つまり、TOEFLは日本人の大半を占める中級以下の学習者の英語力を測定するには不向きなのです。
その点、TOEICは日本人向けにデザインされたテストなので、初級から上級までの広い範囲を5点刻みで正確に測定してくれます。TOEICの出現は、自分の英語力の正確な尺度を求める日本人学習者にとり、まさに福音だったといえます。
また、990点満点のため英語力の伸びがイメージしやすくなっています。TOEFLのばあい670点あたりが満点とされていたため、小さな伸びがわかりにくいのです。例えば、TOEFL550点と600点は、50点の差しかありませんが、実際には英語力に大きな開きがあります。TOIEC換算で、700点くらいと900点くらいの差が存在します。これは、中級レベルの学習者と外国語としての学習の、一応のゴールに達した人の力量差に匹敵します。最近のコンピュータ化されたTOEFLは300点満点ですから、目盛りはさらに粗くなってしまいました。

TOEICは現在年間7〜8回の定期公開テストが実施され、手続きも簡素で、非常に受験しやすいテストです。年に一回しか受験できない大学入試や国家試験と違い本当に気軽に受けられるテストです。定期的に受け、学習のペースメーカーにするにはうってつけです。
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